智樹さんは一体何を考えているのだというのだろう。
私は横屋敷グループも遺産さえも放棄するつもりだった。縛り付けて置く理由が分からない。
ましてや結婚なんて、出会ったばかりでどうかしていると思う。
自分の部屋に戻り、ベッドに寝転んだ後も彼に握られた手の温かさを、キスを落とされた痺れがまだ残っているような気がした。
チェストの上に視線を投げると、今日水族館で悠人さんが買ってくれたイルカのぬいぐるみが、小さく笑っている様に見えた。
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宣言通り、智樹さんが家に居る時間はグッと増えた。
特別な事をする訳でもなく、何気ない会話のやり取り。休みの日にちょっとしたお散歩をしたり、どこかに出かけたり
穏やかな智樹さんと過ごす時間は、とても静かに過ぎて行った。 それと同時に自分の気持ちが少しずつ揺り動かされていくのに、気づいていたけれど気づかない振りをしていた。
年はあっという間に明けて行く。
「さっみー、クッソさっみー…」
「病院の中に入ったらいいじゃないですか」
「病院のしけた匂いは苦手なんだよ。」
年明け、私は祖父のお見舞いに来ていた。何故か朔夜さんもついて来た。 たまたま家で居合わせたというのもあるが
朔夜さんは私を病院まで送るだけ送って、中には入らなかった。
外に設置されている喫煙所で身を震わせながら煙草を吸っていた。



