「お父さんを憎んでいるんですか?」

「殺してやりたい程には、憎んでいる。 まりあも同じじゃないか?」

同じ?
私は、同じだっただろうか。

顔も知らない本当の父を、私を置いていった母を、憎んだ事はあっただろうか。

愛された記憶がない。だから淡々と目の前に起こる出来事を傍観者の如く見つめていた。
憎むほどの感情が、私の中にはない。

「憎んでいないです」

私の返答に智樹さんは意外な表情を浮かべる。

「智樹さんがご両親を、お父さんを殺したいと憎んでいるのは…
きっと愛された記憶があるからです。憎しみは愛から生まれると思うから。
けれど私は誰からも愛された記憶が自分の中には、ない。 だから悲しいです。
憎しみさえ沸かない程誰からも愛された事がないのが…ただただ悲しいです」

パッと見開いた瞳が、どんどんと下へ落ちていくのが分かった。 私と智樹さんの傷は、似ているようでどこか違う。

「俺がまりあを愛したら、いつかまりあも俺を憎むのかな?」

「どういう意味です?」

繋がれた手が離れるのと同時に、智樹さんは立ち上がった。