「これだから学のない奴と話すのは疲れる。
中国のことわざみたいなもんだ。 人は関わる相手や環境によって良くも悪くもなるっつー事だ…。
朱は黄色味のある赤色だ。人が支配されやすい色って事だ」
どこまでも冷たい彼の言葉に思わずムッと顔をしかめる。
遠回しに私は馬鹿にされているのだと思う。いっちょ前に苛立ちはしたが、馬鹿にされるような人生を送ってきた事には間違いがない。
…それにしても、この人達はどうして母の事を私の歩んできた道にここまで詳しいのだろう。
それは調べ尽くしたという事だろう。ゾッと背筋に冷たい旋律が走る。 何の目的で、私の事をここまで…?
兄弟だという二人。私とこの人達を結ぶ接点など何一つ見当たらない。 異様な空間の中で青白い水槽の魚たちだけが色を持ち優雅に水辺を泳いでいた。
「私が支配されていた…?」
ベッドから立ち上がり、朔夜さんが冷たい視線を投げ落とす。 シャンデリアの光りに照らされて、茶色の瞳が不思議な緑へと変わって行く。
「馬鹿な母親に育児放棄されて挙句は死なれて、義理の父親は最悪な奴だった。
親戚に引き取られた後も不幸続き。やっとその支配から解放されたかと思えば、馬鹿な男に利用されて」
やっぱりこの男は視線を逸らさない。少しだけ見上げて、直ぐに横に視線をずらした。



