「と、智樹さんッ…」

「単純な理由なんだ。一目見た時から君に運命を感じて結婚したいと思った。
そんな理由じゃあ駄目かな?」

駄目でしょう…普通。

結婚っていうのは愛し合った男女が共同生活を営んでいくものであって、軽々しく決めていいものではないでしょう。

それに私は’家庭’という温かさを知らない。父は私が産まれる前に亡くなり母は私には無関心だった。

義理父になった男に強姦され、母の死後引き取られた父の遠い親戚には当たり前だが親切にしてもらえなかった。

大半の人が普通に経験する筈だった当たり前の愛情を知らない。
けれどそれを思えば智樹さんだってそうではないのだろうか。 やっぱり私達は歪だ。


彼は’運命’だと言った。その言葉は’嘘’だと本能的に感じている。


「私、誰かと生きて行くイメージが出来ません…」

「それは俺だって同じだよ」

「付き合っていた男性は今まで居ましたが、どうしても未来を想像出来なかったんです。
きっと誰と一緒に居ても、私…未来は想像出来ない。」

「それならば君と俺は同じ傷を持っている。欠けた物がある同士、埋め合えばいいじゃないか。
それが一緒に居る理由になる。 俺が君の家族になる。」

ゆったりと話す柔らかい口調。 彼は私の手を握り締めたまま、愛しい物にくちづけをするように、その手の甲に何度もキスを送った。