あの館の至る所に立派な水槽があり、それは24時間体制でお手伝いさんがお世話をしている。
そして私の母も魚が好きだと言っていた。 今まで水族館には全く興味がなかったし、母と水族館に出かける事もなかった。デートで何か一度も来たことがなかったし、そもそも行きたいとも思わなかった。
けれども包み込むようなどこまでもブルーの少しだけ冷たい空間は、色々な意味で心が落ち着いた。
小さな魚から、大きな魚まで、水槽の中を行ったり来たり
一つの水槽に姿かたちも、大きさも違う魚たちが押し込められている姿は圧巻で少しだけ切なかった。
ドームの様な長細い水槽の中、白い泡粒が上に向かって上がり、大きな岩陰に水草。様々なカラーの魚たちはどこまでも青いブルーライトにとてもよく映えていた。
「見て見て、熱帯の魚たちだねぇ~ニモだねぇ」
「すっごい、近くで見ると迫力がありますね。」
「うちも智樹さんの趣味で日に日に熱帯魚やらが増えていくけど、やっぱり水族館の迫力には勝てないよね。
見て、あの青くて小さなの、まりあみたい」
私のの藍色のワンピースを指さして、悠人さんが無邪気に笑う。
私達のちょっと後ろで朔夜さんはつまらなそうな顔をして、魚たちを見上げていた。
水族館に居る間中、まるで妹の手を引く様に悠人さんは私の手を離さなかった。
それは恋人同士の甘い物とは少し違っていたけれど、無邪気な笑みを浮かべて私に声を掛ける悠人さんを見るのは、嬉しかった。



