「厚い唇に憧れるんですけどね、セクシーって感じがして」
「ぷ、お前なんか色気とは無縁じゃねぇか。 ちょっと濃い目のリップライナーで唇を縁取って、グロスをオーバー気味に引くと唇にも立体感が出る。
でも俺はお前のその薄い唇はそれで良いと思う。
んー…パステルピンク、ローズカラー…。ピンクベージュも捨てがたい。
ラメやグロスは控えめにした方が似合うな。」
いつもは余り表情を変えない怖いイメージだったけれど、私の顔にメイクをしていく朔夜さんはとても穏やかな表情をしていた。
…本当に美容の仕事が好きなんだ。 そして何だかんだ言って、意外に面倒見が良い。
不思議な人だと思う。
冷たい感じがするのに、彼が私にしてくれたメイクはほんのりと温かい。 美容室でしてもらったメイクとはまた違った良さがある。
「本当に上手…!
ありがとうございますッ…。」
「別に。まぁその冴えない顔もメイク一つでどーにでもなるっつー事だろ」
「すいませんねぇ、冴えない顔で」
憎まれ口を叩きながらも、朔夜さんは勝手に人のクローゼットを開ける。
そこには智樹さんが用意してくれていた洋服たちと、この間買ってくれた物が並ぶ。
余りに高級品すぎて、どう着こなせばいいか分からない物だらけな訳だが。



