「取り合えず座れ」
ドレッサーの椅子に座らせると、鏡越し朔夜さんは私の顔をジーっと見つめる。 そして長く細い指で顔に触れるのだ。
横柄な態度とは裏腹に、シートタイプのメイク落としで私の肌を撫でる指は、とても優しいものだった。
智樹さんに連れて行って貰った美容師に触れて貰った時と、何故か少し違う。冷たい指先が頬に触れる度に、ばちばちと火花が散って行くような不思議な気持ちになる。
この人は、人にとても優しく触れる。
「厚塗りすればいいって話じゃねぇんだし」
「メイクの基本が分かんないんですよ。 だってこんな高級な化粧品使った事ないし…
私いっつもドラッグストアの安い化粧品使ってました。」
「まりあは肌が綺麗なんだ。そんな何でもかんでも塗ったくれば良いって訳ではない。」
さらりと’まりあ’と呼び捨てにされた。
しかし、鏡に映る朔夜さんの肌の方がよっぽどきめ細やかに見える。
「少し赤みがあるな。グリーンのコントロールカラーを使うといいよ。
後肌が少し乾燥気味だ。 この下地は保湿もしてくれるから少量指で広げてから塗って。まずは手の甲で肌に馴染ませるように。
ファンデーションは塗らない方がいい。気になる部分だけコンシーラーをしてパウダーをはたいておけばいいよ」



