祖父は私の前ではとても弱々しく見えた。大企業の社長にはとても見えなかったし、ただの弱った老人にさえ見えた。

病院にはもう一人で来るようになった。 始めの頃は心配していた智樹さんが運転手をつけてくれたけれど、何となく面倒で止めた。

代わりに電車の乗り継ぎをして、ここまでの道のりは覚えた。
この病院には仕事関係の人間も出入りしていて、祖父は渡された書類に目を通す。

そんな時はおじいちゃんの顔から、社長の顔に戻っていた。  祖父は、私が病院に来る事をとても楽しみにしていたと思う。

12月半ば、いつまでも同じ場所に留まり、何もしないで居る事は出来ない。

「まりあ様、おかえりなさい」

「あー…ども。」

横屋敷家には、使用人が数人居た。ちょっぴり小太りの坂本(サカモト)さんという年配の女性は、若い頃から横屋敷の家に仕えているらしい。

私をまりあ’様’と呼ぶ。その呼び方は恐れ多くて、ちょっぴりくすぐったい。
自分のまりあという名はどうかと思う。 聖母マリアという柄でもないし。

母が私に何故この様な大層な名を付けたのか、由来さえ知らない。

「お食事はどうされますか?」

「じゃあ適当に」

「朔夜様と悠人様もいらっしゃってますよ」

「また…ですか…」