「でも俺は、横屋敷のじーさんの養子になって恵まれた生活を送って来れたと思う。
本当はこの人生、お前が歩むものだったのかもしんねーのにな」

立ち上がった朔夜さんは小さな声で「ごめん」と呟いた。 そして部屋の扉に手を掛けて止めた。

「智樹さんの事だけど、俺には理由は分かんねぇけどお前にえらく拘ってる。
信じるなつったのは、あの人が1番何を考えているか分からないから。
でもただ一つ拘っている事があの人の中にはある」

「拘っている、事?」

「椎名あゆな。お前の母親だ。智樹さんは何でか知らんけど、じーさんの娘にえらく拘ってる。
あの人は基本的に人に無関心で冷徹な人だ。何故お前の母親に拘ってるかは、俺には分からん。
別にお前が智樹さんに好意を抱こうが俺の知った事じゃねぇけど、何となく嫌な予感がする。

それだけだ。今日は、悪かった」

ぱたりと扉は閉められた。 さっきまでの喧騒が嘘のように、室内を静かな水音だけが包んでいく。

運命の糸に巻き込まれていく。 それは様々な人を取り巻いた物語。
情念と情念が絡まり合った先に見えた未来は、一体私の前に何をもたらすのだろうか。

全てを知る美しいネオンテトラだけが、青と赤の光を煌びやかに纏い水の中を優雅に泳いでいた。