クローゼットの中にあったブラウンのコートを着ても、冷たい北風が身に染みる。 数日外に出ていなかったから余計だろうか。

立派な門の前に、恐らく智樹さんが所有しているであろう黒の高級車が横付けされていた。

改めて門前から見るレンガ造りのルネサンス調の外観は迫力がある。 母はこの家を出る時どんな気持ちだったのだろう。 約束された裕福な未来まで全て捨てた理由は私には理解出来ない。

「まりあ、」

助手席の扉を開けた智樹さんは、今日も穏やかに笑う。

今日は1日いっぱい休みは取ったというのにスーツをきちりと着こなして、ネイビーの薄手のコートを羽織っている。

促されるまま、助手席に乗り込むと皮のシートが鼻につく匂いがする。


笑顔を決して崩さないこの人の本性は知ったこっちゃないが、数日前朔夜さんが言っていた言葉はずっと心のどこかに引っかかっていた。

’横屋敷智樹だけは信じるな’ 誰に言われなくとも、信じるつもりなんかない。 その柔らかい微笑みが嘘だろうが本当だろうが、私には関係のない事だ。

「病院に行く前に付き合って欲しい場所がある」

「付き合って欲しい場所?」

「休日なんて俺も久しぶりなんだ。少しだけ買い物がしたい。女の子の意見も聞きたい所だし」

「はぁ…」