「まりあ、今日は春太さんの病院に行こう。
1日いっぱい休みは取った」

休日もない程忙しい智樹さんからの突然のお誘い。 祖父には一度会うべきだと思った。遺産を放棄するにも、だ。

私に母の面影を重ねたいという親心は、分からなくもない。そしてこれは興味本位だが、自分の母の父。祖父にも一度会ってはみたかった。

恐らく母が幼少期を過ごしたであろう横屋敷の館は、とても豪華だったけれどどこか冷たい感じのする場所だ。


この屋敷に来て、外に出るのは初めてだった。 病院に行こうとは言われたものの、クローゼットの中何を着ていいか迷った。

迷いに迷った挙句その中で1番シンプルで素っ気もない白いシャツとジーンズを選んだ。 タグを見て見るとブランド物で、こんな薄っぺらいシャツでもうん万円するとは思うのだが。

ドレッサーには一応メイク道具一式揃えられていた。 何故か化粧をする気にもなれずに鏡の中の自分をジッと見つめて、そのまま出る事に決めた。

伸ばしっぱなしの茶色の長い髪がライトに照らされて、傷み切っているのが分かる。 きっと祖父もこんな女が孫だと知ったら幻滅するに違いない。そして私はそれを望んでいた。