「欲がないわけではありません…。ただ横屋敷グループだとか遺産には興味がないだけなんです…。
私はそういうものを得る資格のある人間ではない…」
「とはいっても、お金や地位はあって損をするものでもないよ。
それに俺はまりあと一緒に居たいな」
ゆっくりとしたトーンで丁寧に喋る。 一緒に居たいなんてお世辞に決まっている。 でも心のどこかで酷く動揺している自分が居た。
誰かに必要とされる事。優しさに触れる事。こんなにも渇望していた自分がどこかに居た。
でもこれはきっと悲しい結末。 期待などすべきではない。いつだって落とし穴は目の前に迫って来ているものだ。
サッと智樹さんから身を退いた。
すり抜けていく髪を名残惜しそうに見つめ、にこりと優しい微笑みを落としてくれる。
出会ったばかりだというのに、何故にこんなに心臓が忙しく動いているの?まるで自分が自分ではないように。
「まりあの人生は色々とありすぎた。 ここでゆっくりとこれからの事を考えてみるのも良い。
少なくとも俺は、今まりあと一緒に居たいと思っているよ」
その言葉に返事は返せなかった。 それ程に動揺していたという事だ。
「おやすみ」と言って、部屋の扉は静かに閉められた。



