【完】囚われた水槽館~三人の御曹司からの甘美な誘愛~


手の中には、白い封筒。 私の一番欲しい物? 欲しい物なんかなかったのに
この館で緩やかに水のように流れる時間だけで、私は十分満足していたのに。

封筒を開けると、そこには一枚の紙切れが入っていた。 手にした瞬間、それが何かは直ぐに分かった。

「智樹さん…!」

顔を上げると、やっぱり智樹さんは優しく微笑んだままだったから。

「これは…」

「まりあ、好きに生きろ。
これが、俺がまりあにしてあげられる最後の事だ。
これからの人生は、自分の為に…好きな場所に行き、好きな様に生きなさい。
この館に囚われ生きるよりも、君はもっと広い世界を見るべきだ。 そして、幸せになってくれ」

手の中には、フランス行きの片道切符。
幸せになってくれ。 その声が優しく館内に響く。

幸せを、本当に望んでいいというの…? また外に飛びだって行っても、私を傷つける物だらけの世界かもしれない。 未来は優しくない物ばかり私の瞳に映すかもしれない。

でもいつだって、朝目覚め瞼を開けると、あなたの顔ばかり浮かび上がる。

忘れることなど愚かだ。

受け取ったチケットを握り締めると、瞳からぽろりと涙が零れ落ちる。

「智樹さん、ありがとう――」