手の中には、白い封筒。 私の一番欲しい物? 欲しい物なんかなかったのに
この館で緩やかに水のように流れる時間だけで、私は十分満足していたのに。
封筒を開けると、そこには一枚の紙切れが入っていた。 手にした瞬間、それが何かは直ぐに分かった。
「智樹さん…!」
顔を上げると、やっぱり智樹さんは優しく微笑んだままだったから。
「これは…」
「まりあ、好きに生きろ。
これが、俺がまりあにしてあげられる最後の事だ。
これからの人生は、自分の為に…好きな場所に行き、好きな様に生きなさい。
この館に囚われ生きるよりも、君はもっと広い世界を見るべきだ。 そして、幸せになってくれ」
手の中には、フランス行きの片道切符。
幸せになってくれ。 その声が優しく館内に響く。
幸せを、本当に望んでいいというの…? また外に飛びだって行っても、私を傷つける物だらけの世界かもしれない。 未来は優しくない物ばかり私の瞳に映すかもしれない。
でもいつだって、朝目覚め瞼を開けると、あなたの顔ばかり浮かび上がる。
忘れることなど愚かだ。
受け取ったチケットを握り締めると、瞳からぽろりと涙が零れ落ちる。
「智樹さん、ありがとう――」



