「死ぬ事が、お前がまりあにした償いになるとでも思ってんのかよ?!
本当に償いの気持ちがあるのならば、生きろ!
生きて、お前は自分の犯した罪を一生かけて償えよ!」

何も映さないような虚ろな瞳のまま、智樹さんは濡れた手を空へと掲げた。 それはまるで空にぽっかりと浮かぶ月を掴もうとしているみたいだ。

そっとその手を握り締めると、智樹さんはゆっくりと私へ視線を向けて「まりあ…」と笑った。
出会った頃の様に優しい瞳で、笑ったんだ。

「まりあ…ごめん…。
愛しているよ…。
妹だって知っていたのに、俺は…
君を愛していた…。愛してしまった…。 傷つけて、全てを奪って…俺が味わった絶望を与えようと
君は何も悪くなかったのに…ごめん、本当に、ごめん…。 どうして君と出会ってしまったんだろう…
どうして俺は…君の兄なんだろう…」

「とも…き…さ……」

こちらを見やる智樹さんの瞳を、ツーっと涙が伝う。 それを丁寧に指ですくうと彼は穏やかな顔をした。

「君と兄妹じゃなかったら…堂々と好きだと伝えられたのに…
いや、俺は全部間違ってた…。
君を妹として正しく愛せていたのならば…こんな事にはならなかった…。
やり直せるのならば、君があの館に来た日から…。普通の家族として、君と…」