「遺産の件は、全て私から春太様に頼んだ事です。
全ての真実を春太様にお話いたしました。」
坂本さんの瞳は、優しく揺れていた。子供を見つめるような優しい瞳で、いつも私を見ていてくれたんだ。
「何があろうとも、私はあゆな様の…そしてその娘であるまりあ様の味方です。」
長年横屋敷家へ仕えて来た。 母には、返しようもない恩があると言う。
そんな彼女は、幼き頃からこの三兄弟を見守って生きて来た。 それと同時にある時期からしきりに私の母について調べ出す智樹さんの、身辺を探っていたという。
「智樹様の、横屋敷家へ来る前の苗字は、椎名です。」
「え?」
坂本さんの言葉に、悠人さんと朔夜さんも目を丸くした。
「まりあ様は、現在亡くなったお父様の苗字を名乗っていますね」
「えぇ…。ずっと…。母の苗字さえ知らなかった。
母が義理父と再婚した時は苗字が変わりましたが…亡くなってまた椎名に戻りました…」
「これは、春太様も知らなかった事実です。
私も智樹様が横屋敷家へ引き取られた数年後に知った事ではあります。
あゆな様は横屋敷家を出る時、妻子のある男性とお付き合いをしていました。そしてその子供を身ごもっていた。それがまりあ様です。
私だけが知る事実です。
そして…まりあ様の父親は、智樹様の父親でもあります」



