何故に会った事のない私に…?
大体私は今日まで横屋敷の人間だったという事実さえ隠されてきたのだ。 母は私にそんな話一度たりともしてくれなかった。
「突然の話で混乱しているかもしれないけれど…」
「全く意味は分かりません…。」
正直な気持ち。こんな馬鹿でかい屋敷に連れて来られて、横屋敷の人間だと言われてもいまいちピンとこないのだ。
自分が今まで置かれていた環境と余りに違い過ぎる。
戸惑う私に智樹さんはやはり優しい微笑みを浮かべるのだ。笑うと目尻が垂れてもっと優しい顔になる。それはここに連れられてから怯えてばかりいる私にとっては、救いの笑みの様にも見えた。
「でも…
智樹さん達はそれでいいのですか?
その…私の母の父にあたる方の養子に入っているのならば…
私さえいなければ横屋敷の会社も遺産もあなた達の物だった訳ですよね?」
智樹さんの眉尻がほんの僅かにぴくりと動く。けれど彼は依然と笑顔を取り繕っていた。
「俺達に春太さんの意思を変える事は出来ない。」
「でも私…そんな突然グループを引き継ぐとか遺産とか正直どうしたらいいか分かりません…。
だって母は横屋敷の話を私には一度もしてくれなかった。」



