憎むって苦しい。
それをずっと知っていた。
私の人生の中にも、憎んだ方が楽な人は沢山居た。
私を置いていった母親も、顔も見た事のない父親も
酷い事をした義理父を、裏切られてばかりいた友人。 私を愛してくれなかった男も。
憎んでいない、そう思い考えない方が、救われた。 私は誰も愛そうとはしなかった。愛してから、裏切られるのはもっと辛いから。人に期待をかけるのは裏切られた時惨めだから。
閉じ込めてきた心を、いつだって誰かに見つけて欲しかった。 曇りなき愛を探していた。
もしかしたら、あなたもずっとそうだったと言うの?――。
―――――
その日の夜、もう少しこの館で引継ぎをしていくと言った智樹さんは忽然と姿を消した。
というか、引継ぎの必要もなかった。そんなものはとっくに済んだ話だ。 智樹さんはこうなる事を誰よりも前から知っていた。
横屋敷家の全てを手放す事。私を自由にする事。 もうずっと前から決めていた事だったのだ。
その夜、悠人さんと朔夜さん。 そして私は坂本さんに呼び出された。
彼女の口からとんでもない事実が飛び出すまで、私は智樹さんの抱えていた苦悩を知ろうともしなかった。



