そう言って、戸棚の中から智樹さんは薬を数錠取り出して、水も使わずに歯で噛み砕く。
それでも彼の顔は冴えないままだった。
「でも…智樹さん…こんなに汗が…
やっぱり病院に行った方がいい…」
「そんなに優しくするな。俺が君にした事を考えて見ろ。」
「そんな事…今は関係ない…」
「どうしてそんなに人に優しく在れる…」
「だって…智樹さんは私に優しくしてくれた…。
全部が嘘だった訳じゃない。
私を美容室に連れて行ってくれて…祖父に会わせてくれて…この家に住まわせてくれて
ひとりぼっちだった私に居場所を与えてくれた。
助けてくれた…。
それに…誕生日覚えてくれていた事、嬉しかった。 あのアクアドーム、嬉しかった…!」
「君とは、違う人間として出会いたかった――。
そして、あんな乱暴なやり方じゃなくって優しくしてあげて
いつか、君と家庭を築きたかった。 俺が君を世界で1番幸せにしてあげたかった――
どうして俺には、それが出来なかったんだ…」
「智樹さん…本当に病院に行ってよ…。私にした事全部忘れてくれて構わないから…
死んじゃうよ…」
「ごめん、暫く一人にしてくれ」



