「智樹さん!どうして…!
どこに行くつもりですか?!」
柔らかい笑顔のまま、智樹さんはゆっくりと私の頬に触れた。 何度も私の体に触れて来たのに、1番優しい触れ方をした。
「どうして…?
本当にどうしてこうなってしまったのだろうか…。 そもそも君を見つけ出してしまった事が間違いだったのだろうか…。
俺達は会わない方が良かった。
俺にあんなに酷い事ばかりされても、君はいつも優しくて…俺を受け入れてくれるから…こんな気持ちになるなんて…。
憎んでもらえた方が、まだ楽だったのに…。ごめんな?まりあ……」
「謝罪の言葉なんていらない…!どうしてそんな事を言うの?!
憎んでなんかいない…!だから…だから…」
触れた手を離し、胸の中ぎゅっと抱きしめられる。 包み込む甘ったるい香り。何度も抱き合った筈なのに、それは違う人。
何故かどうしようもない懐かしさを感じてしまう。 まるで遥か昔、どこかで出会ったような。
少し前も何度もこんな気持ちを感じたことがある。 胸の中、顔を上げると見下ろす顔は困った様に優しく微笑った。
眉が垂れ下がるのと同時に、目も垂れ下がってより一層優しい顔になる。 薄い唇が、僅かに上がる。 とても寂しい笑顔だった。



