「智樹さん…」

「横屋敷グループは、朔夜と悠人に任せる事にする。
とはいえ、俺のしてきた仕事は春太さんのしてきたものだ。悠人はまだ学生だし、二人にはまだ荷が重いだろう。
横屋敷グループを手放すのも、また自由。もう二人共子供ではない。自分の人生を自分の足で歩けるだろう。
心配はいらない。悠人の事は手は回してある。大学院を卒業するまで安心して貰って構わない。
それに会社の事も、横屋敷に関わる親戚の人間には一通り任せてある。 俺が居なくとも、何とかなる」

すっきりとしている顔をしていた気がした。まるで智樹さんは…全部準備をしていたように…。

「智樹さん、もしかして全部知っていたんですか?」

水槽から目を離し、こちらを見つめる笑顔に嘘や偽りは感じられなかった。 これがきっと本来あるべき姿なのだ。 じゃあ、どうして?

智樹さんは私の問いかけに返事はしなかった。

「もう少し、ここで引継ぎをしてから俺はこの館を出て行く。
まりあ、君はもう自由だ。どこに行っても、誰と一緒に居ても良い。
朔夜とならば、きっと君がずっと欲しかった物が手に入るだろう。」