何かがおかしい。
まるで智樹さんは始めからこうなる事が分かっていた気がする。 おかしな胸騒ぎが体を襲っていく。 ゆっくりと消えていく後ろ姿をどうしても追いかけずにはいられなかった。
「まりあ…!!」
朔夜さんの強い声に引き止められ、足を止める。
振り返ったら、彼の瞳が戸惑いで揺れている。
「こうなったって当然だろう?智樹さんがお前に何をしたか忘れたか?
どうして追いかけようとする? やっとお前は自由になれる。 」
自由?
誰かを切り離す事が、本当の自由なの?朔夜さんはそれで本当にいいの?
血が繋がっていないとはいえ、幼い頃から一緒に育ってきたのならばそれは兄弟同然だ。
本当に智樹さんがこのまま横屋敷家から出て行って、それで全部終わりなの?
「まりあ!」
朔夜さんの声を振り切って、智樹さんの後を追う。
部屋の中に入ると、壁に埋め込まれた水槽に手を充てて、智樹さんは出会った頃と同じ様に
優しく微笑う。 初めて会った時、私に柔らかく笑いかけてくれた時と同じ。 私を物のように扱った智樹さんこそが、嘘の姿だったのではないのだろうか。あれは全て幻だったんじゃないだろうか。
妖艶でどこか妖しい雰囲気を纏うこの水槽館が見せた
だって本当の、あなたは――。



