どうして?
私は祖父にちゃんと言った筈だ。そして納得してくれた筈。
なのにどうして…今になって、智樹さんから全てを奪うという事をするの?

「ちょっとちょっとー!俺達だって困っちゃうよぉー…
横屋敷グループは、春太さんが病気になってからずっと代わりに智樹さんが当主としてまとめてきたんだよぉ?
俺は別に大学院まで出して貰えば、その後の自分の身の振り方なんて何とかなるよぉ。
それをいきなり…そんな事言われたって、困る…。ねぇ?朔夜?」

「別にはなから横屋敷家の全てなんか欲しくねぇ。 けどこりゃあ失笑もんだな。
あんたが欲しかった物、全部手に入れられないなんて」

朔夜さんは挑発的な視線を智樹さんへと送る。 それでも智樹さんは毅然とした態度を崩さず、背筋を伸ばしたまま真っ直ぐに前を見つめていた。

「この屋敷も、会社も全てあんたの物じゃあなくなる。
あんたがまりあをここに閉じ込めておく事も出来なくなる。 金や権力を使って手に入れていた物は、全てなくなる。
俺はその遺言を呑むよ。あんたが欲しかった物全て手に出来なくなるならば、そんな嬉しい事はない」

言葉ではそう言っていても朔夜さんの表情は酷く冴えなかった。 それでも智樹さんは黙ったままだった。