その上で、全てを智樹さんに相続される事を望んだ。 その話をした時も、朔夜さんは納得をしてくれていたし、悠人さんも大学院の卒業までお願い出来たらそれで良い、と言っていた。
智樹さんのずっと欲しかった物――横屋敷家の全て。 しかし弁護士は驚いた事を口にした。
「全ての遺産と横屋敷グループの権利を、横屋敷家の次男である朔夜様と三男の悠人様に譲るというのが
春太様の遺言であります。」
呼吸をするのを忘れそうになる程の衝撃だった。 何を言っているのか、数分理解出来ぬままだった。 勿論困惑しているのは私だけではない。悠人さんはきょろきょろと周りを見回し、朔夜さんは目を細めて目の前の書面に向き直る。
今この場で毅然とした態度を取っているのは、弁護士の先生と智樹さんのみ。
まるでこうなる事を全て知っていたように。 口を開いたのは、私だった。
「どういう事ですか…?祖父が本当にそんな遺言を残したっていうのですか?
確かに私は全ていらないと言った。けれど何故…智樹さんにだけ何も遺さないというの?」
「ですがそれが私に託された春太さんの最後の遺言でした。
ご長男である智樹様には何一つ譲らない、という。」



