抱きしめる腕に力が入る。 それは僅かに震えていた。
「俺を許さないでくれ。 君に酷い事ばかりして、傷つけた俺を…どうか憎んでくれ」
「どうして、そんな事を言うんですか…?」
声が震えている。 胸の中、顔を上げると智樹さんは唇を噛みしめ、やっぱり苦しそうな顔をする。
涼しい切れ長の瞳が、悲しみで歪んでいく。 どうしてあなたは、そんな顔ばかりするの?
「ねぇ、智樹さん。自由になって? 智樹さんが欲しい物は、全部手に入る。
そうしたらもう私になんか拘る必要がありません。 あなたの恋人と…あなたが欲しかった家庭を築いて欲しい…。
智樹さんはきっと幸せになれる人だと思う。あなたはきっと誰かを幸せに出来る人だと」
言い終わる前に頬を掴まれて、深いキスが落とされた。 唇から彼の熱がより一層伝わってきて切ない気持ちになる。
「そんな物は、いらない…。 君以外など、欲しくはない。」
「智樹さん…?」
「まりあ、愛している」
そんな言葉が智樹さんの口から出るなんて。 けれどその’愛している’はとても苦しそうだった。
こんな悲しいアイシテル聞いたことない。



