けれどアクアドームに閉じ込められた二匹のネオンテトラは、まるで私と智樹さんの様だった。
憶病な魚達は、どうしたって群れの中でしか生きてはいけない。 そんな所、少し似ているような気がしている。
その夜
いつも通り私は智樹さんのベッドで一緒に眠った。
眠った、だけだった。 力任せに何かをしようとも、抱こうともしなかった。
ただただ強く抱きしめて眠るばかり。 智樹さんの胸の中は、とても熱かった。 でももう私に赤いしるしを付けようとも、無理やり抱こうともしなかった。
部屋の中、青白い水槽に浮かぶネオンテトラだけが私達を見つめている。
「まりあ…朔夜が好きか?」
だから私を抱きしめながらそんな質問をする智樹さんの全てが分からなかった。
「好きです。」
「俺が憎いか…?
君をここに閉じ込めて、朔夜と会わせないようにしている
俺が憎いか?」
胸の中に包まれているから、智樹さんの表情は読めない。
でも吐き出される言葉達は、どれもこれも苦しそうだった。
「憎く、ありません…」
飛び出した言葉は、全部嘘ではない。 智樹さんに憎しみを感じた事はなかった。
乱暴に物のように扱われた日も、無理やり大切な物を奪われたとしても、不思議と憎しみという感情が沸いてこない。
だってあなたの中にはいつも何か抱えきれない想いを感じるから。



