小さな水族館は、都内にある華やかな物と違いあまり人気ではないらしい。
けれどその静かな雰囲気、私も嫌いではない。 派手さはないが、小さな水槽が立ち並び熱帯魚達が気持ちよさそうに泳いでいる。
ふと、あの日館内のプールで泳いでいた、智樹さんの切ない横顔を思い出した。
横を見ると、切れ長の瞳が水槽をジッと見つめている。 優しかったり、冷たかったり、エゴイストだと思ってみたらとても切ない眼差しを向ける事もある。
憎むべき対象だったのかもしれない。だけど、この人に何をされても、何故か憎み切れずにいる。その理由は分からない。
「小さい時、母と父と水族館に来た記憶がある」
「両親と?」
いつか言っていた。 自分には、両親の記憶がある、と。それが朔夜さん達との違いだと。
私と同じ自殺をした母親と、自分達を捨てた憎い父親。 だけど両親の話をする智樹さんの口調は何かを懐かしむようにとても柔らかいものだった。
「幸せだった時の記憶だ。 どうしようもない程純粋だった頃の」
「今でもお父様が…憎いですか?」
その問いに、智樹さんはこちらを向いた。 無言のまま、首を横に振った。



