「まりあ…」
「どうして、智樹さん…。
私祖父にきちんと伝えた。 横屋敷家も遺産も何も欲しくないって。
それを智樹さんが望むのならば、全部智樹さんに譲ってって言った。 祖父もそれで納得してくれたわ。
だからもう、智樹さんは私に拘る必要はない。私じゃなくってもいいの。智樹さんが望む幸せ、あなたの愛する女性と叶える事が出来る…」
「……それが、君じゃなきゃ意味がないと言っても?」
「私は横屋敷の人間ではない。それなら智樹さんにとって利用価値のない人間でしょう?」
「それは違う…!」
余りにも大きな声を出すから、手をパッと離す。
振り返った智樹さんは何かを言いたげな顔をして、直ぐに顔を伏せた。
「…何でもない。
せっかくの休日だ。どこか出かけよう。
まりあも家にばかり居たら退屈だろう。ハハッ、ここに閉じ込めている俺が言うのも可笑しいが…」
やっぱり私は、彼の事が分からない。
でも彼の中、冷たさだけがあるだけじゃないってのは分かる。
その冷たさの中に抱えきれない優しさも存在している。
そのアンバランスがどこかもの悲しくて、やっぱり切ない。 どうして私には何も見せてくれないの?
こんなに近くにいるのに、あなたはやっぱりどこか遠くて――。



