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ハァ、ハァ、という荒い息遣いが聞こえる。
今が夜か昼かも分からない。 だってこの部屋には、窓がない。
ただただ四方を取り囲む青白い水槽が僅かな光を放っているだけ――。
魚達は泳ぐ。その身を美しい色彩で染め上げて。そこには自由の欠片もない筈なのに、その様は目を見張る程美しい。
その日初めて、真ん中にぽつりと置かれたテーブルの上で智樹さんは後ろからではなく、前から私を抱いた。
けれど私の瞳には、智樹さんの姿は映らない。
優雅に泳ぐ魚達ばかり見つめていた。 私と同じ囚われた身であるというのに、何故にそんなに美しくいられるのだろう。
狭い水槽を絡まりながら泳ぐ魚達は、狭い部屋の中でその身を絡ます私達に少し似ていて、何故か笑えた。
「まりあ…」
「お前は俺の物だ…」
「永遠にここで囚われて生きろ…」
「俺の為だけに存在しろ…」
乱暴に私を抱くのに、智樹さんの声は何故か少しだけ震えていた。
彼の瞳を一切見ずに、ただただ終わりを迎えるのを待っていた。