「お腹は……」
グッとお腹を押さえる。
先程まで私は死ぬ予定だった。だから空腹も感じなかったし、喉が渇くという感覚も無かった。
けれど不思議な物だ。生きていればお腹は空く。どんなに絶望の淵に立っていても、食欲はあるなんて人間って面倒な生き物だ。
智樹さんは再びくすりと小さな笑みを浮かべた。
「お手伝いさんに今ご飯の準備はしてもらっている。あともう少し待ってもらえるかな?
俺も余り家では食事を取らない。けれど今日は折角朔夜や悠人もいる。皆で一緒にご飯を食べよう。
まりあ、好き嫌いはあるかい?」
「いえ、好き嫌いはないですけど…」
またか…。
また朔夜さんと悠人さんと会わなくてはいけない。
悠人さんはまだ友好的な態度だったから良い。…けれど、朔夜さんは少しだけ怖い。
まるでその戸惑いを察してくれたかのように、智樹さんが口を開く。
「大丈夫。 朔夜は口も態度も悪いけれど、そんなに悪い奴じゃあないんだ」
「そう、ですか…」
そう彼に言われると何も言えなくなってしまう。だって私に選択権なんてない。勝手に助けられて、お風呂まで入って着替えまで用意されていた。
もう何かに反抗する気力さえも湧かない。



