卵焼き一つまともに作れない私に朔夜さんは呆れかえっていた。
昔から料理はしてきたけれど、ちっとも上手になりやしなかった。 それでも呆れながらも朔夜さんと一緒にキッチンに立つのはとても楽しかった。
何気ない時間が、当たり前にある普通の光景を、誰かと共有する事がこんなに楽しいなんて、こんな気持ちは初めてだった。
砂糖を入れ過ぎた甘すぎる卵焼きを、バターと苺ジャムをたっぷりと塗ったトーストを頬張る朔夜さんを見て
誰かと一緒に居る時間に安心感を覚えてしまう事を、こんなに幸せな時間だというのに初めて気が付いたんだ。
幸せな時間。
そう思っていたのに、ご飯を食べ終わった後シャワーを借りて、坂本さんが消してくれた智樹さんにつけられた赤いしるしを鏡越しに見てしまい、一気に現実に引き戻されるような気がした。
それを隠すように、首元にタオルをかけた。 いくら隠しても、消える事はないと知りながら。
「おいで」
やっぱり綺麗だ。
暗がりで見ても思ったけれど、カーテンを開けて陽の光を浴びればなおさら。
茶色の緩いパーマはふわふわで、程よく綺麗な二重幅もぷっくりと膨らんだ涙袋も、その中心にある不思議な色の瞳も、陽の光に当たってより一層映える。



