「温めておいた方が消えやすくなります。」
「坂本さん……」
首筋だけではない。 首筋から背中にかけて、智樹さんが残したしるしは体中にある。 まるでそれは自分の所有物であるという事を主張するように…。
坂本さんは淡々と蒸しタオルでそれを温めた後、細い指でコンシーラーを塗って行く。
「大丈夫ですよ。汗にも強い物ですから、ちょっとやそっとじゃ消えません。」
坂本さんは、智樹さんに付けられたしるしを丁寧に消していってくれた。
彼女には、いつも監視されているように見られていた。 きっと智樹さんが自分のいない間に私を見張ってくれと頼んでいるようにも思えて、彼女の視線がとても苦手だった。
けれど私の体を触る彼女の指先は、とても温かいものだった。
「安心してください。あなたがどこに行ったかなんて、智樹さんには報告しませんので。
けれど智樹さんにあなたの事を頼まれているのも事実ですが…」
「どうして?」
鏡越し、彼女はとても優しい顔をしていたと思う。
「まりあ様の事は存じておりました。」
「私を?」
「私、このお屋敷に仕えるようになってからはまりあ様のお母様であるあゆな様にとても助けられましたので。」



