手帳を手に取り、椅子から立ち上がる。
智樹さんの部屋の扉は微かに開いていた。
そこから微かに女性の笑い声が聴こえる。
そっと覗くと、そこには智樹さんと抱き合う横関さんの姿があった。
「ふふ…悪い人…。 あの方でしょう?あなたが結婚したいって言っていた横屋敷の血を引く娘さんって…」
「お前には関係ない。」
「何にも知らなそうな若い女性だったじゃない…あんな子騙しちゃって可哀想ねぇ…」
「あいつは全部知ってるよ…」
少しだけ背伸びをした彼女は、智樹さんに抱き着いたままキスをした。 智樹さんはキスをしたまま、私の気配にはとっくに気づいていたと思う。
それでも彼女を自分の方に引き寄せてキスをして、部屋の前に居る私と目が合っても表情一つ動かさなかった。
「ッ……」
智樹さんはあんな風に私を抱きしめない。
あの人はいつも私を見つめる振りをして、違う所を見つめていた。
私を抱く時も、まるで無理やりしているように後ろばかり向かせた。 愛されていない…。分かっている。
ここでたとえ智樹さんと結婚したとしても、虚しい結婚生活になるのは分かっていた。



