ゆっくりと起き上がった智樹さんは虚ろな目をしていた。
そしてひんやりと冷たい両手を私の首へ掛ける。
「まりあを俺の物にしたいって言ったのは、嘘じゃないよ…。
この魚たちのように水槽の中に閉じ込めて、永遠に俺だけの物にしたい。」
「どうぞ…」
ゆっくりと私は目を閉じた。けれどその両手の力が入る事はなかった。
「冗談だよ…そんな事を本気にするな…
俺はもう寝る。眠たくって仕方がないんだ。ここで寝ても構わないか?」
「じゃあ私がゲストルームに移動します。」
立ち上がろうとする手を止められた。
そしてふわりと優しく智樹さんは私を包み込む。まるで愛しいものを抱きしめるように。
智樹さんの気持ちが全く分からないの。 あんな風に荒々しく私を抱いて、傷つけるだけの行為なのに
抱きしめる力は、こんなにも柔らかい。 私の事を道具としか思っていない、冷たい男なのに――
「まりあ、君を絶対に離さない」
うわ言のように私を抱いて、そう言った。 今まで聞いた中で一番悲しい声だった。



