愛がないなら、抱きしめ合う行為はしなくてもいいと思っている。 離された唇の先に、悲しい顔をしたのはやっぱり智樹さんの方だった。
「まりあ……」
名前を呼ぶ声は、とても弱々しいものだった。
本当に智樹さんは私を抱いて満足なの?
子供のように悲しい顔をする彼を、優しく抱きしめた。
「大丈夫ですよ…。私を縛り付けるような真似はしなくても…
私は逃げたりしない…」
「本当は……こんな風にするつもりじゃなかった…」
「智樹さん、心配しないで…
あなたの欲しい横屋敷の全てを私はあなたに譲るつもりです…。
私は全て放棄する。…だから」
「だから君は……俺の前から居なくなるとでも言うのか?」
胸の中、見上げた顔は歪んでいた。 彼の中にここまでの熱情があるのは知らなかった。
「私はその方が智樹さんにとって楽になれると思ってます。 私、祖父に話します。 全ての権利を智樹さんにと…。横屋敷家の人間にも何も言わせないようにします。
そうすれば智樹さんは私となんて結婚しなくても済む。 あなたはあなたの好きな人と幸せになって欲しい。
囚われていて欲しくない…」



