「あ。朔夜待ってよぉ~。
まりあ、じゃあまたね!今度ゆっくり喋ろう!」
ニコッと笑顔を見せて朔夜さんの背中を追うように悠人さんは室内から出て行った。
取り残されたのは、名前さえも知らない三人目の男。ベッドに座り込む私を見下ろして、にこりと柔らかい笑みを向けた。
朔夜さんとも悠人さんともまた違った雰囲気だ。 一言で言えば、私よりずっと年上の大人の男性なのだ。
今までの人生で出会った事のないような優雅で、色気のある人だった。 姿勢良く胸を張りコツコツと靴音を鳴らしながらこちらへ近寄ってくる度に、仄かに甘い香水の香りが散らばる。
黒髪で短めの髪は、ワックスでさり気なくセットされていて清潔感がある。 前髪は上がっていて、そこから見える顔の造りも端正だ。
猫のような切れ長の瞳に、鼻筋は通っていて高い。ずっと口角の上がっている口元で、私に近づくと柔らかい微笑みを見せた。
何て色気のある人だろう。
「初めまして、まりあ。
横屋敷 智樹です」
そう自分の名を告げる喋り方はゆっくりとしていて落ち着いた口調だった。 まるで私が不安がっているのを見抜くかのように、落ち着いたトーンで話をする人だ。
’まりあ’と私の名を呼ぶ。それは初めて会った人なのに、すとんと自分の中に入って来る。
まるで初めて会ったのに昔から知っている様な…。
こんな感覚は生まれて初めてで、とても不思議な気分だった。



