「大人しそうに見えるかと思えば、気の強ぇ女…」
私をみおろす朔夜さんがぼそりと呟いた。
それと同時に茶色の重そうな扉がゆっくりと開かれた…。
朔夜さんはそちらに視線を移すのと同時にしゃがれた声で「遅ぇ」と言った。
風を切って颯爽と室内に入って来た人は、きちっとスーツを着こなす大人の男性だった。 朔夜さんとも悠人さんともまた雰囲気が違う。 彼らよりかは幾つか年上だろう。
言葉は無くとも、彼の雰囲気一つでこの場での権限を1番持っているのは何故か感じた。
「朔夜、悠人、すまない。仕事が立て込んでいた。」
「面倒な事を俺達ばかりに任せるのは、止めろ。
どうやらこのドブネズミの様な女があんたのご所望の’椎名 まりあ’らしいぞ。
想像とは違っていたが、間違いなく見つけ出して届けた。満足だろう?」
トン、と拳で室内に入って来た男性の胸を小突く朔夜さん。
さっきよりもずっと険しい表情をしていた。 並ぶと同じくらいの身長で、二人とも高長身だ。
けれど、互いに顔を寄せ合う二人は傍から見ても仲は良さそうではなかった。 踵を返し朔夜さんは部屋から出て行った。
それに続くように悠人さんはベッドから飛び降りた。



