「でも、朔夜さんは出るんですよね?」
「いちおーな、横屋敷の人間だから。
あ、これはお前が横屋敷の人間じゃないって言ってるわけじゃねぇからな。
俺らなんかよりよっぽど正式な横屋敷の人間に間違いはない。 でも頭のお固い親戚連中の事だ。まりあの存在を知ったら色々とやっかみもあるだろう。
お前はそんなん巻き込まれなくていい」
最初はあんなに怖かったのに。 どうしてこの人のあけすけな優しさは不器用で伝わりやすいんだろう。
「朔夜さんの彼女って幸せでしょうね」
「そーか?別に普通だと思うけど」
私の顔も見ずにさらりと言った。
彼女なんていねぇよ、とでも返ってくると期待していたと言うのだろうか。
彼女が居ない訳ない。 悠人さんに不特定多数の彼女が居るように、この人にだって当然彼女は居るだろう。
そう考えれば、智樹さんにだって私の知らない誰かは居るかもしれない。 でもどうしてこんなに微妙な気持ちになるのだろう。
期待した答えが返って来なくてつまらない気持ちになるなんて、子供と一緒ではないか。
特別な感情なんかなかった。
けれど私をあの日押し倒して自分の物にしようとしたり
こうやって当然のようにマンションに入ったり
少しだけ勘違いをしてしまったのかもしれない。 だから人と近づきすぎるのは良くないのに。



