「蓮見さ」



「ん?」



 一応、返事はしてくれたけれど。

 俺を見ることなく、作業を続けている。



「なんで舞台のセリフが、一言だけなんだよ?」



 わかりやすく固まった蓮見。



 手が止まって。
 俺の衣装をじっと見つめだした。



「まだこの劇団に入って……1年だし……」



 それが、本当の理由じゃねぇよな?


 
 この劇団の奴ら。みんな良い奴で。
 
 蓮見だけ、いてもいなくてもいいような役を
 与えるる奴なんて、いないよな?



 代表の染谷さんが、
 イジメみたいなことをするとは、思えねぇし。



「もったいねぇな。
 俺が座長なら、蓮見を主役にするのに」



 これでもかというほど、目を見開いた蓮見。



 一瞬、俺と視線が絡んだけれど。

 悲し気に光った瞳は、また俺の衣装を見つめだした。



 俺には言いたくないわけ?


 なんで悲しそうな顔をしているのか、
 教えてくれないわけ?