「言われなくても、帰るし」
俺はそう言うと
泊まり用品が入ったボストンバックを、
勢いよく掴んだ。
ダイニングテーブルに取り残された
冷めた料理たち。
マグカップに描かれた
目つきの悪いドーベルマンに睨まれ。
俺のために用意された物の
お礼も言えぬまま帰ることに、
チクリと胸が痛む。
玄関で靴を履いた俺に
蓮見は、小さな箱を手渡してきた。
「これ、返す」
俺がクリスマスにあげた
オルゴールじゃん。
もう会いに来るなって
突き放されている気がして
俺の目じりもカッと上がる。
「いらねぇなら、蓮見が自分で捨てろよ」
「ヤダ……」
「めんどくせぇこと
俺に押し付けんじゃねぇよ」
「違うし……」
「はぁ?」
怒りをぶつける俺の瞳を
蓮見はまっすぐに見つめてきた。
大粒の涙を流したまま。
苦しそうに顔をゆがめて。