自分から聞いたくせに返事を聞かずに逃げようとするけど、背中に回った腕に力が強くなり逃げられない。



「…なんでって、好きな女にあんなこと言われたら追いかけないわけねぇだろ」


「…っ!!」



いつもなら冗談みたいに笑って言うその言葉が、今日は真剣な声色で言われて。



"チャンスは必ずやってくるはずだから。"



長谷部先輩に言われた言葉が頭の中に響く。
もしかしてこの流れが神様が与えてくれたチャンスなのだろうか。



ずっと何年も言わずにきたあの二文字を言えば、この広い背中に腕を回したらチャンスの神様の前髪を掴むことはできるのだろうか。



奴の背中に腕を伸ばして、そのまま下にさげた。



「……私は思っていたことを言っただけ」



今がもしチャンスだったとしても、今の私にそれを掴む勇気はなかった。