月の明かりに照らされながら
私達はいつも通り2人で
肩を並べながら歩いていた





「最近、帰りが遅くなって本当にごめんね」



マスターが静かに口を開く






「大丈夫ですよ‼︎
全然時間なんて気にしてないんで‼︎
むしろ、『statice』で仕事してるのが凄い楽しくて、
あっという間に時間が過ぎちゃうんですよ‼︎」




フッと微笑むマスターに対し
私は更に喋り続ける






「『statice』にはいろんなお客さんが来るのに、
一人一人にあわせて接客してるマスターは凄いなぁーって、
私もそんな風になりたいなぁって最近思い始めてます!」






自然と笑顔で話していた私に
マスターは困った様子で
否定してゆっくりと話し始めた





「俺は凄くなんてないよ…。
親父から引き継いだ名ばかりのマスターだよ…。」





「………」






「本当は店の運営から経営まで一通り
俺一人でやらなきゃいけないのに
親父の力を借りなきゃ成り立たない…
情けないよな俺…。」




マスターは力なく笑った




「……」





初めて聞いたマスターの弱音に
私は言葉を失いかけた







「でも…俺にとって『statice』も
『statice』に来るお客さんも大切だから…
今は俺にできる事を全力で取り組くむしかないって」



マスターは真っ直ぐな眼差しで
夜空に浮かぶ星を見つめる






「…って、、なんで俺、
麻耶ちゃんにこんな事話してんだろう、、」





急に慌てだしたマスターに
私は思わず笑ってしまった





「ふふっ、なんか想像できますねっ‼︎
10年後も20年後も…
この先、ずっーとマスターの人柄に魅了されたお客さんで溢れかえってる『statice』が‼︎」





マスターと『statice』の事を考えていたら
思い浮かんでいた光景が自然と言葉になっていた




「…って私もなに言ってるんだろう…
すいません…」






恥ずかしさのあまりうつむく私の頭を
マスターが"クシャ"っと撫でた




「麻耶ちゃんは優しいんだね」




ドキッ



自分でも分かるくらいに
私の頬は一瞬にして赤く染まる




(よかった…夜で。今のこの顔を見られなくて済む…)




昼間は激しく鳴く蝉も
夜になると静かに鳴いている



自分の鼓動の音がマスターに聞こえるくらい
私の胸は高鳴っていた