「あの、マスターは…?」




「絵里ちゃんの付き添いで病院に行ったのよ」


「……ッ」
(最後の挨拶ぐらいしたかったな…)



「あの子ったら、
今日は麻耶ちゃんの最後の出勤日だからって
お店に来れるように調整してたのに、最後に居ないって意味ないじゃない」



力なく俯く私に
マスターのお母さんが口を開いた




「絵里ちゃんの退院の日も決まって
手続きとかで忙しいんじゃないか?
ほら、結婚式の準備もあるだろうし…ッ」



「あなたッ!…シッ!」

マスターのお母さんが
マスターのお父さんに向かって
睨みを効かしている




「えッ…⁉︎あの…マスターと絵里さんは…
ご結婚されるんですか?」


「うん、絵里ちゃんの病室に行くとパンフレットがいっぱい置いてあって式場を決めてるみたいだったよ」


マスターのお父さんの言葉を聞いた瞬間
私の目から溢れ出しそうになった涙を堪えた




「優人の望む結婚ではないと思うけど…」

ため息混じりに呟いた
マスターのお母さんの言葉が
私の耳に届かないくらい
動揺している自分がそこには居た



(これでいい……私と勇樹が結婚する様にマスターは絵里さんと結婚するだけだ…もう絵里さんにも勇樹にも傷ついて欲しくない…)




「短い間でしたがありがとうございました。
マスターにも宜しくお伝え下さい」


私はマスターのお父さんと
マスターのお母さんに
最後の挨拶をして『statice』を立ち去った