救急車が止まっていた事や
昨日"statice"が臨時休業した事から
噂は流れ始め
今日の『statice』では
絵里さんの話題ばっかりだった





いつもマスターがいる場所には
マスターのお父さんがいて
違うカフェで働いてる気分にもなった





お客さんも引いて閉店間際になった頃
お母さんが声を掛けてくれた




「ねぇ麻耶ちゃん。一緒にケーキ食べない?」




「えッ?」




突然の事に私は驚いた




「もぅお客さん来ないだろうし。ねっいいでしょ⁉︎あなたっ‼︎」



マスターのお母さんはマスターのお父さんをチラリと見る




「あぁ、いいよ。二人とも今日1日頑張ってくれたし、母さんの快気祝いでもやろう」


「嬉しい。じゃぁさっそく準備しなくちゃ…」



ニコニコにしながらキッチンへと向かうマスターのお母さんを私は引き留めた




「私も手伝いますよ!」



「あら、そう?じゃぁ、麻耶ちゃんはお皿準備してくれる?」


「はい!」

私達はテーブルに3人分のケーキと珈琲を並べた




「じゃぁ…母さん、退院おめでとう」

「おめでとうございます‼︎」



マスターのお母さんは嬉しそうに微笑む


「お父さんも麻耶ちゃんもありがとう」




私は目の前のケーキを一口、口にいれる



「この味……」
(あの時のショートケーキの同じ味だ…)





「やっぱり分かっちゃった?優人に頼まれたのよ。あなたが来たらこのショートケーキを食べて貰いたいからって」




「………」


私は言葉を失った




「このケーキ、優人が寝る間を惜しんで作ったのよ」


「………ッ」
(マスター……)



お母さんがゆっくり話し始めた



「”優人”って名前はね、誰にでも優しい心を持って、愛されるような子になってほしいって願いを込めて主人と一緒につけた名前なの…名前通り優しい子になったわ…」



「………」






「だけどその分、昔から周りを優先して人に頼る事をしないで一人で抱え込みすぎちゃう子にもなっちゃったの。ちょうど3年前、私が持病で倒れて入院した時にも…」


マスターのお母さんに引き続き
マスターのお父さんもゆっくり話し始めた





「親父はお袋の看病で大変だろって
『この店は俺が守るから任せろ』って優人は僕の後を継いだんだ、勿論、優人がこのお店を継いでくれる事に関しては嬉しかったけど、心配でもあった」




「優人はね、辛い時ほど平気なふりをするのよ。店を継いだ当時も追い詰められていく一方で見ていられなかったわ」



「だけど麻耶ちゃんが来てから優人は変わってきた、それは僕らがみても分かるぐらいにね」



マスターのお父さんは
私に優しく微笑み掛けてくれた




「最近の優人ったらね、毎日のように麻耶ちゃんの話ばっかりするの、もう妬けちゃったんだから」



笑いながら話していたお母さんが
真剣な眼差しで私をみた




「ねぇ、麻耶ちゃん……自分を責めないで欲しいの、あなた達の間で何があったかは知らないわ。でも朝のあなたの顔…とても辛そうな顔してた…自分を責めないで…」




「麻耶ちゃん…僕たちは麻耶ちゃんに感謝してるんだ。優人の拠り所になってくれてありがとう」



マスターのお母さんと
マスターのお父さんの
優しい言葉に涙が溢れて止まらなかった



そんな私にマスターのお母さんは
言葉をかける事なく
背中をさすり続けてくれた





「ありがとうございました」



マスターのお母さんの快気祝いを終えた後
マスターのお父さんが家まで送ってくれた