〜3年前の夏〜



ジメジメした梅雨も終わり
蝉が鳴き始めた7月1日






「大川麻耶です。今日からよろしくお願いします!」





今日は私にとって再スタートになる特別な日





家の近くにある『statice』というカフェで
バイトをさせてもらうことになった





ホールの片隅で私は真新しいエプロンを身にまとい2人の男性に元気よく自己紹介をしていた




「俺とは一度バイトの面接で会ったよね!ここのマスター兼店長の吉沢優人です。今日からよろしくね!麻耶ちゃん!」






「初めまして、君が麻耶ちゃんかぁ。こんな小さなカフェに来てくれてありがとう。妻が復帰する迄の間、よろしく頼むね!」




マスターの吉沢さんとマスターのお父さんが笑顔で出迎えてくれた






ここ『statice』は家族で切り盛りをしていてる小さなカフェ


マスターは吉沢優人さん
25歳のイケメンマスター。ご両親が開業されたお店を2年前に引き継いでお父さんとお母さんがお店の手伝いをしていたみたい




今回、体調を崩して入院しているマスターのお母さんの代わりに短期アルバイトで私が雇われたのだ






「はい!頑張りますッ!」



私がここに来るのは今日がこれで2回目



1回目はバイトの面接の時





引きこもり生活をしていた私には無縁の場所だったけど
家のポストに入っていた"短期アルバイト募集"のチラシを見て再スタートをさせるにはこの場所しかないと思って応募したのだ






「じゃぁ、始めようか!麻耶ちゃんに頼みたいのは…」



マスターが仕事の内容を順を追って丁寧に教えてくれた





私の仕事は接客。
来店されたお客さんにオーダーを取り料理やドリンクを運んでお会計をする作業までが私の担当。






(…私…大丈夫かなぁ…)




引きこもり生活が長く人に関わる事に対して少し不安を感じるのに
仕事の多さとホールを一人でこなさないといけない緊張感が上乗せされ少し焦り始める




「……」



「仕事量多いけど大丈夫かな?」





一通りの説明が終わり立ち尽くしている私の顏をマスターが覗き込んできた




(ここで「不安です…」なんて言えなよ…
そんな事言ったらやる気が無い奴って思われちゃう…)




「大丈夫です!」





私は不安に思う気持ちを抑えて
笑顔でマスターに答えた





「そんなに不安にならなくても大丈夫だよ!俺もホール入れる時はいつでもフォロー入るし!」





マスターは笑いながら私の顔を真っ直ぐ見てきた







「分からない事や不安な事があったらいつでも話してね」




「はい…」


(マスターって優しそうな人なんだなぁ…。)





「じゃぁ、笑顔で頑張って‼︎女の子は笑った顔が一番可愛いんだから!」



マスターは笑いながら
私の肩を"ポン"と軽く叩いた



「ふふっ…」



私はマスターの発言に不意に笑ってしまった





「お、いいね!その笑顔!」

「もぅ、マスター、からかわないで下さいよ(笑」



さっきまで感じていた不安と焦り、それから緊張という感情がマスターと話している間にあっという間に消えて無くなった