Xmasムードに包まれた街中を歩くカップルに混じりながら私は『statice』へと歩いていた




(……あんなことがあったから
マスターと顔合わせづらいな…
…でも仕事だ…頑張らなきゃ…)




「平常心…平常心……よし!」




お店の前で立ち止まり
気合いを入れようと
自分のほっぺたをパンッパンッって叩いてみた



「…ッ…痛い…」



「あんた何やってんの?」


声がしたほうを振り向くとベージュのトレンチコートを着た黒髪の綺麗な女の人が立っていた




「ドアの前に立たれたら中に入れないんだけど。ここ関係者以外立ち入り禁止よ。」



「あ、すみません…私ッ」




私の言葉を聞く事なく女の人は店の中へ入っていった



後に続くように店に入ろうとすると



「優人ー!会いたかったッ‼︎♡」



目の前でさっきの女の人がマスターに抱きついてた



「………えッ」



目の前で繰り広げられる会話を聞きながら
私はその場に立ち尽くしていた



「絵里?日本に帰ってきてたのか?」


「昨日の夜にね!
それよりなんでおばさんが倒れたこと教えてくれなかったの?
知ってたらすぐアメリカから帰ってきたのに」



絵里さんという綺麗な女の人は
マスターに抱きついたまま
マスターの顔を覗き込む





「今日から私ここで働くから!」



絵里さんは満面の笑みで告げる




「「………はッ?!」」



私はびっくりしてつい声を出してしまった




マスターも驚いた様子で慌ている




「いやいや、ちょっと待てよ。
お前アメリカに住んでるだろ?
仕事や家はどうしたんだよ?」



「もう荷物なら全部まとめてこっちに持って来たわよ!仕事も辞めてきた」




諦めたのかマスターは大きなため息をついた


「はぁ…」




絵里さんはこっちを見てきた



「で?この子は誰?
なんでここにいるの?
まだ店はオープンしてないわよ」




「その子はうちの大事なスタッフだよ…
アルバイトの大川麻耶ちゃん」



マスターが私を紹介してくれた



「あのッ…大川麻耶です。よろしくお願いします」




「…………ふーん」


興味を持たれなかったのか
絵里さんはすぐに視線をマスターに戻してた





(あ…この人…マスターが好きなんだ…)





「麻耶ちゃん、おはよう。
朝から色々ごめんね。
でも悪い奴じゃないから」




「……大丈夫ですよ。気にしてません」




昨日の事があったから
私はマスターの顔を見る事ができずにいた





マスターと絵里の押し問答が続いたが

マスターが根負けして
結局、絵里さんはここで働くことになった