桜の花びらがひらひらと散り始めたある日のこと




”ピーンポーン”






滅多に鳴らないインターホンが部屋中に鳴り響く





(…誰だろ?……)








「…はい」


扉を開けると目の前には水野さんがいた




「………水野さん………」


「大川、久しぶり!入っていいか?」




水野さんは両手いっぱいに
食材を抱えて笑っている




「……………」

私は返事をする事はなくうつむいた



「……じゃぁ、勝手にお邪魔します!」



水野さんは少し強引に
部屋の中に入ってきた




「うわー、大川ん家に来る久しぶりだなぁー、
ちゃんとご飯食べてるか?」




水野さんが笑いながらも
心配そうに私の顔を覗き込む




「………」




ご飯を食べようとしても吐き気が襲いかかり
ご飯を食べれないのが今の私だった





「キッチンかりるね!」




水野さんはいきなり料理を作り始めた



「……。」



何も喋らない私には目もくれず
ひたすら料理を作り続ける水野さん




数分後には
野菜スープとサンドウィッチそれからサラダが
ニ人分テーブルに並んだ





目の前に置かれた料理を
食べ始める水野さん




「大川、一緒に食べよう」






(……「一緒に食べよう」って
言われても無理だよ、
今日も吐き気がして気持ち悪いし……。
でも…水野さんがせっかく作ってくれたんだから…
無理してでも食べなきゃ………)




私はイスに座った




「……いただきます…」





目の前にある野菜スープを
パクッと一口食べてみる



「………」

「………」



無言の私を固唾を飲んで見つめる水野さん



(………食べやすい…
しかも…美味しい…)



「……美味しい…」



私はポツリと呟いた
 

「だろ!俺、料理するの好きなんだ!」



水野さんは満足気に笑う



「………」





「俺、一人暮らしだから何でも作れるんだ!
和食に洋食にイタリアン、
それからフレンチに中華!」



水野さんは喋り続けている





「………」




「何か食べたいものがあったら
いつでも言えよな!
俺、大川の為ならなんでも作るから!」







水野さんは私が
会社を辞めた事に触れなかった





(……なんで何も聞かないの?
…なんで何も言わないの?……)




「…………」



(そっか…これが水野さんの優しさなんだ…)





「グスッうぅ……」




気付いた頃には
私の目から涙が流れていた




泣いてることに気づいた水野さんは
背中をさすると同時に
私を力強く抱きしめた






「俺、ずっと後悔してた。
なんで最後まで大川の側にいてやらなかったんだって…、
なんで大川の1番の味方に
なってやれなかったんだって、
ずっと、ずっと後悔し続けた…」




「………」


水野さんは喋り続ける



「もう、こんな後悔はしたくない。
俺、ずっと前から大川の事が好きだった。
俺が大川の1番の味方でいるから。
俺がお前を守るから。
だから…俺と付き合って下さい。」





私は水野さんのいきなりの告白に戸惑う





(…ずっと好きだった…なんて…
……信じられないよ…。
でも……1人ぼっちは嫌だ……
…私の味方になってくれる人が欲しい…)





「…………お願いします……。」



ひとりぼっちになる恐怖と
今の状況から逃げ出したい私は
コクリと頷いた





「てか、俺たち一緒に住まないか?
大川を1人になんてしておけない」




ここから私たちは恋人になり
同棲生活が始まった