『statice』を出てから数分




マスターは無言で辛そうな表情をしていてる



そこにはいつも笑顔で話してくれるマスターの姿はない





だからといって私はマスターに掛ける言葉も見つからずにずっと下を向いていた




沈黙が続く中
走り続けること10分





「着いた」



先に沈黙を破ったのはマスターだった



「え…」



マスターの一言に私は顔を上げ目を見開いた



「わぁッ…キレイ…」




私の目には綺麗な夜景が写り込んでくる
と同時に右肩に急に重みを感じ
マスターの髪が私の頬をくすぐる




「………」





マスターは口を閉ざしたままビクとも動かない




ドキッ



「……っ……」





(どうしよう…)



いつもと違うマスターに戸惑いながらも
ドキドキしている自分がそこにはいる




「…ごめん…少しだけ…
…あとちょっとだけでいいから…
このままでいさせて…」






(マスターにそんなこと言われたら…
…断れるわけないじゃん…)




「はい」




私は頷く事しかできなかった





しばらく経ってやっとマスターが口を開く






「実は今日の朝、母さんが急変したって…
病院から電話があったんだ…」



「……え…」





「だから今日1日ずっとしんどくて…
本当なら今すぐにでも病院に行きたいのにッ…」




私はマスターの顔をそっと見た



「こんなッ姿ッ…
…お袋にも…親父にも…
…みせッられないだろッ…」




マスターの目からは涙が溢れ出そうになる



「……っ…マスター……」



マスターに手首を掴まれ抱き寄せられる




気づいた時には私はマスターの腕の中にいた



「「………」」



私はマスターを突き放せずにずっと抱きしめられていた




しばらく経って


抱き締められた腕がゆっくりとほどかれていく



「……ごめんね。
迷惑かけちゃったね」




「大丈夫です…」





少し上を向いたらマスターの顔がすぐ目の前にあった




ドキッ



マスターの目に引き込まれそうになる




2人の唇があと数センチで触れそうになるくらい近くなった瞬間





~~♪




過ちを犯すのを止めるかの様に
私の携帯が車内に鳴り響いた




この着信音は1人しかいない…





(…勇樹だ…)





パッとマスターから顔を背けた





(え…私、今、何をしようと…してた?…
勇樹から、電話が…なかったら…
私きっとマスターと…キスしてた…よね⁉︎……)





ドキンッドキンッ



心臓がバクバクして鳴り止まない




「……好きだ」



「………えっ」



マスターの言葉に私は息を飲む



「こんな形で言うつもりはなかった…」

「……ッ……」



「けど…俺の中で麻耶ちゃんに対する気持ちが、、
どんどん大きくなって溢れでる。
"マスター"としてではなく…
"一人の男"として見て欲しい…
…好きだよッ…麻耶ちゃん」




“麻耶"



勇樹の顔が浮かぶ



「……ッ……」




あの”悪夢”から私を救ってくれたのは勇樹だ





「………ごめんなさい。
私には付き合ってる人がいるんです……」





(勇樹を裏切る事なんてできないよ…)




「どうして泣くの?」




マスターの言葉で自分の目から涙が落ちている事に気がついた




「あれッなんでだろッ…
ごめんなさい…」





おでこに柔らかいものが当たった
と同時に
“チュッ”と音がした





「困らせてごめん。今日のことは忘れて」





私は話すことすら出来ず
ただコクンっと頷くしかなかった