ブエノスアイレスに咲く花


奈津美は黙って、話を聞いている。
トゲを恐る恐る触ってみたり、
抜き取ろうとしてみたりしながら。

「どうして運命なんですか?」

女性が不思議そうに答えると、相沢は

「俺、イグアスの滝と、
 コロン劇場に行きたいんで」

彼女は驚いて立ち上がり、
とても嬉しそうに言った。

「エスタンシア、ご存知なのね」

相沢にしてはめずらしく、
照れたように微笑んだ。

「私の母の故郷はアルゼンチン東北部の
 ミシオネス州というところにあります。
 イグアスの滝は、遠くないですよ。
 母の体調がよくないので、
 店は兄にまかせて今度、国に帰るのです。
 
 いま母が住むのは、
 ブエノスアイレス近郊ですけれど。」

奈津美はサボテンを見つめたまま
小さく笑って言った。

「サッカーとチェゲバラが
 理由じゃなかったの?」