『組長さんは結婚したいらしい』

1、「何も知らないくせに」


「光様、行ってらっしゃいませ。」

毎日、使用人たちにそう言われて家を出る。
私の名前は大門寺 光(だいもんじ ひかる)。
大門寺学園高校三年生だ。

「光さん、遅刻しちゃいますよ。」

と、言われ私は慌てて声のする方へ行く。

「おはよう。」

この人は江戸川 優(えどがわ ゆう)さん。私の婚約者だ。

「おはようございます、江戸川さん。今日も送っていただきありがとうございます。」

私達は婚約者だが、だからと言って会話をする訳では無い。大してする必要も無いとも思っているし…

「おはようございます!光さん!」

この人は水上 銀次(みずかみ ぎんじ)さん。可愛いらしく童顔で私に敬語を使っているが私より3つ年上らしい。全く信じられない話なのだが。

「おはようございます、銀次さん。今日も元気で何よりですね。」

私の家から学校までは車で10分ほど。行き帰りは両方車で送って貰っている。とは言っても行きは江戸川さんの家の車で、帰りは私の家の車でだが。

「そういえば明日は祝日っすね!学校はあるんすか?」

「確かに祝日でしたね。学校は休みですけど…」

私がそう言うと銀次さんはパァっと笑顔になった。

「そこで光さん、提案なんすけど…俺らの家に泊まりに来ません?」

泊まり…?

「えっと、江戸川さんのおうちでお泊まり…ってことですか?」

「もしかして何か予定とかありますか?」

週末は特に予定とかは無かったはず…誰かと会うとか家の用事も無かったし…

「いえ、特にないと思います。でもそろそろ学校に着くので詳しい予定とかは連絡して貰ってもいいですか?」

「了解しました!行ってらっしゃいっす!光さん!」

「行ってきます。銀次さん、江戸川さん。」

「…」

週末ってことは江戸川組の先代の秀(しゅう)さんもいるはず…久しぶりに会うんだし挨拶しておかないと。

「光〜!おっはよ〜!」

この元気な子は泉 京子(いずみ きょうこ)。私の同級生で唯一の友達だ。

「おはよう、京子。」

ん?京子の胸元なんか光ってるような?花の形の…なんだろう?キラキラしてるような。桜の形?

「光、今日も車で来たの?友達出来ないよ〜?」

「まぁ、転校してきたっていう時点で友達できにくいでしょうが。でも、京子がいてくれて良かったよ。」

「なんか今日、やけに素直じゃない?」

京子はニヤニヤしながら私に聞く。

「そう?」

私はクスッと微笑む。

「うん。なんか嬉しそう。」

嬉しそう、か。

「確かにそうかもね。」

「え?何かあったの?もしかしてあの子達からなんかあった…とか?」

「違う違う。あの子達とはもう終わったから。嬉しいのは別件よ。」

あの子たち…ね。

「え?別件?あ、わかった!江戸川さんでしょ〜!」

「秘密〜。」

「えぇー!教えてよ。」

「ん〜?また今度ね。」

私がそう言うと、京子はフグのようにぷぅっと拗ねてしまった。

「拗ねないで。それより京子の婚約者の話聞かせてよ。昨日会ったんでしょ?」

そう、京子には、婚約者がいる。
名前は土井 良(つちい りょう)さん。確か私立土井高等学校の3-Aで、土井財閥の御曹司。
私が知ってるのはそのぐらいだけどすごくいい人だっていう噂はよく聞く。
我が大門寺グループと土井財閥は交流が盛んな方だけど、それはあくまでも大人達だけで私と土井さんは、そんなに交流がない。
良い人だと分かってはいるつもりだが、やはり心配だ。

「話をするほどのことは無かったと思うけど。」

「嘘言わないの。京子の胸元にキラキラ光る桜のネックレスがあるの見えてるわよ。それって土井さんからのプレゼントでしょ?」

そう言うと京子は慌ててネックレスを制服の中にしまった。見えていないとでも思っていたのだろうか?

「見られてたんだ。」

京子は照れながらそう言った。この笑顔は間違いなく幸せの顔なんだけど、どこか怪しいような。
プレゼントを渡しておけばいい、そんな考えが頭をよぎる。

「うん。ガッツリ見えてたよ。」

私は必死に笑顔を作る。この考えがバレないように必死に。

「なんか恥ずかしいな。この桜のネックレスはプレゼント。良くんが選んでくれたんだって。すっごい可愛いよね。」

「もしかして何かの記念日だったの?」

「うん。付き合って5年記念日だったの。時が経つのって早いよねえ〜。」

付き合って5年って…京子今18歳だったよね?

「え?5年ってまだ2人とも13歳じゃないの?」

「うん。そうだけど?」

うん。そうだけど?って常識ですけどみたいな雰囲気出さないでよ…ついていけない。