そう話す蘭の顔はどこか悲しげだった。その顔を見て圭介の胸に覚悟が決まる。

校長室に誰のものなのかわからない叫び声が響く。蘭は背を向けてそのまま校長室を出て行った。



中学校をあとにし、蘭は圭介に「少し息抜きしましょうよ」と展望台まで連れて来られた。涼しい風と美しい街並みに、蘭はそっとブローチに手を当てる。

『最後に蘭と見たかったんだ。これからはアメリカでの生活だしな』

蘭が懐かしい記憶を振り返っていると、ピトリと頬に冷たいものを当てられる。蘭が振り向くと圭介がニコニコしながら立っていた。その手には二本のコーラがある。

「せっかくなので買ってきました。炭酸、飲めますか?」

「炭酸を飲むのは初めてです」

「えっ!?」

驚く圭介の前で、蘭はジッとコーラを見つめる。シュワシュワとした小さな泡をしばらく見つめた後、コーラの蓋を開けた。シュッと音がする。

「炭酸とはこんな味なのですね」